2023年7月17日よりアマゾンプライムで配信が開始された「メタモルフォーゼの縁側」(2022)(117分)を鑑賞。
原作は鶴谷香央理さんの同名漫画
「このマンガがすごい!」など数々の賞を受賞しています
作品情報
主演・芦田愛菜/宮本信子
監督・狩山俊輔
脚本・岡田惠和
「女子高生と老婦人。ふたりをつないだのは、ボーイズラブ。」
ポスター文
「歳の差58歳。最初の青春、最後の青春。」
キャッチコピー
もう設定が強い
キャッチコピーがすごく好き
あらすじ
本屋でバイトをする17歳の女子高生・佐山うららは、BL漫画を読むのが趣味。
しかしそのことを話せる友人もおらず、社交的でもないためキラキラできない。
一方、もう一人の主人公、75歳の老婦人・市野井雪は夫に先立たれ、終活も視野に入れながら書道教室の先生をしている。
ある日雪は、立ち寄ったうららのバイト先の本屋で綺麗な表紙の漫画を目にする。
内容を知らずに買った本はなんとBL漫画。
うららは後日、続きを買いに来た雪に、「ずっと誰かと漫画の話をしたかったの」と喫茶店に誘われる。
こうして芽生えた、歳の差58歳の友情は、小さなメタモルフォーゼを起こしていく――。
ストーリー構造分解
以下、8場に分けて詳細なストーリー構造をご紹介。
結末まで書いたネタバレなので折りたたみます。
見たくない方はご注意を!
※詳細、長いのでさらにプルダウンします。
映画を思い出したいだけの人は箇条書きだけ見てください。
1場(10分)出会い
要素①
夫の三回忌帰りの老婦人・市野井雪が、絵に惹かれて何も知らずにBL漫画を買う
要素②
雪と、レジ対応をしたバイトの女子高生・佐山うららの現在の描写
要素③
漫画の続きを買いに来た雪と、バイト中のうららが出会う
季節は夏。
夫の三回忌帰りの市野井雪は、涼みに本屋に立ち寄る。
久しぶりの本屋はレイアウトが変わっており、料理本があった場所には漫画が並んでいる。
「綺麗な絵」
そう言って雪は1冊の本を手に取り、そのまま購入。
レジ対応をしたのはバイトの高校生・佐山うらら。
うららは少し驚いた反応をしてカバーをかけるか聞くが、雪は断り帰宅。
家で仏壇に「知らないうちにどんどん時間って経っているのね」と語る雪。
かぼちゃを切ろうとするも、固くて難しい。諦めてあり物で夕食を済ませる。
一方、バイト後に帰宅したうらら。
家には人がおらず、冷蔵庫に母のメッセージが貼られているのみ。
こちらも作り置きの煮物を手でつまみ、簡単に夕食を済ませる。
寝る前の体操中に漫画を買ったことを思い出す雪。
机の下の段ボールを取り出すうらら。
二人が手にしているのは、コメダ優の書いた同じ漫画『君のことだけ見ていたい』
漫画には、男子高生二人がキスをするシーンが描かれている。
雪は初めて見るBLの世界に、「あらららら」と驚いた反応。
同じ漫画を読むうららのカットでタイトルが入る。
翌朝、漫画を読みながら寝落ちしたうららは、急いで漫画を隠し登校。
クラスの人気者・英莉が友達と楽しそうに過ごす姿をなんとなく見たり、幼馴染の紡が彼女である英莉と楽しそうに会話する様子をただ眺め、イラストを描いて過ごすうらら。
漫画の続きが気になった雪は、早速2巻を購入し、喫茶店で続きを読む。
うららのバイト時間には3巻を購入しに来るほどのめりこんでいる。
しかし3巻は在庫切れ。雪は迷わず続きを注文する。
後日、雪が書道教室で先生をしている時に本屋から入荷の電話がかかってくる。
本屋に行き3巻を手にした雪は「こういうのって流行ってるの?」と聞き、「初めて読んだんだけど、応援したくなっちゃうのよね」という。
3巻の絵が変わっている(大人になっている)ことに気づいた雪に、うららは「3巻もとてもいいので」と説明する。うららもBL漫画が好きだと知った雪は、バイト終わりの時間を聞く。
「ずっと、誰かと漫画の話がしたかったの」
2場(20分)二人が友情を育む
要素①
喫茶店で話をすることになるが、うららは性格と人目もあってあまり話せない
要素②
連絡先を交換し、後日おすすめの作品を聞かれたうららが雪の家を訪れる
要素③
仲良くなった二人が定期的に会い、交流する様子がダイジェストで描かれる
喫茶店であらためてお互い名乗り、話をする。
雪は無邪気に話すが、うららは周りの目を気にしている。店員が来た時には本を隠すなどしてしまい、あまり話ができない。
結局うまく会話ができず解散になるが、うららは思い切って雪に、誘ってもらって嬉しかったことを伝える。
「私も、誰かと漫画の話したかったんです」
買った本を読み終わったら連絡してもいいか聞かれ、連絡先を交換する二人。
その様子を見かけた紡に、祖母かと聞かれるが、うららは「ばあちゃんじゃない」と答え、英莉もいたため走って逃げる。
漫画の続きを読む雪。
作中作では『大事にする』と二人が結ばれる様子が描かれている。
ついに両想いかと嬉しそうな雪。発行日を見て1年半に1冊の発売だと気づき、仏壇に話しかける。「ごめんね~、まだそっちにはいけないわ」
一方うららは家で受験について母に「どうなの?」と何気なく聞かれている。お金のこととか気にしなくていいと、淡々と話す母。そこに雪からメールが来る。
『1年半に1冊と知りしょんぼり……おすすめの作品があれば教えてください』
うらら、どういうものがいいのか、悩みながら吟味する。
後日、うららを待つ雪はウキウキと料理中。対してうららは少し不安げ。
辿り着いた雪の家からはカレーの匂いがする。縁側から上がるように言われ、家に入り、風が通るのを感じる。
色んな作品を雪に紹介するうらら。連載誌や同人誌も紹介する。連載があることに「1年半待たなくていいのね」と雪は嬉しそう。
しかし、うららはずっと緊張気味。そして「中には過激なものもある」「もし嫌だったら読むのやめてください」と付け加える。
雪はお茶目に親指を立てて「了解」と短く返す。
縁側で、打ち解けたうららと雪が漫画について語り合う。
「がんばれ! 負けるな! 幸せになれ!」とハイテンションで楽しそう。
作中作のデートシーンの『完璧な一日』という印象的なコマが映し出される。
二人は縁側でカレーを食べる。
学校を走るうららと、雪と共に趣味を楽しむうららの様子(バイト先での様子・書道教室で推しの名前を書く様子・ファミレスで語り合う様子)が交互に映されるダイジェストシーン。最後に映るのは晴れた空の下、学校を駆け出る姿。
3場(15分)二人の周囲の人物の描写+うららの初期衝動
要素①
二人が出会うきっかけになった漫画の作者・コメダ優が煮詰まる様子
要素②
雪の家に来た娘・花江、うららの家に来た幼馴染・紡が、それぞれBL本に気づく
要素③
紡の彼女・英莉がBL本を学校で楽しみ始め、うららは「ずるい」と思う
要素④
雪の何気ない「(自分がうららだったら)描いてしまうかも」という言葉が響く
要素⑤
コメダが漫画を描き始めたきっかけをアシスタントに話し、同じ衝動でうららが絵を描く
『君のことだけ見ていたい』の作者・コメダ優の様子。
漫画を製作中だが、途中で消し、アシスタントに「煮詰まった」と言い残して、外で背伸び。空は曇っている。
夜、雪の家を娘・花江が訪ねてくる。一方うららの家にも紡がやってくる。
ご飯を作る雪とお菓子を用意するうらら。その間、訪問者たちはBL本を見つけるが、何も言わない。
本屋で海外留学の本を見る英莉。
一緒にいた紡に「(BL)読んだことある?」と聞かれ、「興味ある」「だって流行ってるじゃん」と答える。
本屋を去る二人とバイトに来たうららがニアミス。うららは後ろ姿を眺める。
翌日、学校では英莉たちがBL漫画について堂々と話して盛り上がっている。
「それは偏見。純愛だよ? BLって」と英莉。
その様子を遠くから見るうららは「ずるい」と小さく口にする。
うらら、バイト先で英莉に会う。
英莉は留学についての本とBL漫画を購入。レジ打ちをするうららに、BL詳しい? とおすすめを聞くが、うららは「あまり興味なくて」とそっけなく返す。そして続ける。
「すごいね、留学とかBLとか、なんか色々あって」
夜、雪の家では花江が戸棚を直そうとしている。
家も歳をとるという話の流れで「最後までここにいるつもり?」と聞く。雪は移住に乗り気ではない。
そこにうららが訪ねてくる。「お友達」と紹介する雪。
うららが代わりに戸棚を直している間に、花江からBLの話題が飛ぶ。花江は「隠してた?」とうららを気遣う様子もありながら、「ちょっと興味あるかも」と肯定的。
花江が酔いつぶれたあとで、漫画について語り合う二人。
そこで雪がノルウェーのお土産があるという。うららは英莉のことなどを思い出した様子(雪が既に娘を立派に育て上げた人生の大先輩であることも意識したような演技・演出)。口には出せない雪への問いかけが、楽し気な雑談にかぶさって語られる。
『雪さん、私ズルいって思ったんです。ズルいのは私なのに。羨ましくてしょうがないんです。なんで私はこんな人間なんでしょう。雪さん、雪さんがわたしだったら、どうしますか?』
まるでそれに答えるように雪が語りかける。
「私がうららさんだったらねえ、もう描いてみちゃうかもしれないわ、自分で」
うららは無理だと言うが、雪は続ける。
「才能ないと漫画書いちゃダメってことある?」
「人って思ってもみない風になるものだからねえ」
雨が降ってきたため、傘を借り帰宅するうらら。開いた赤い傘の裏面は花柄。うららはそれをみて微笑む。
コメダが「何も浮かばない」とまだ煮詰まっている様子が描かれる。
アシスタントを商業に誘うと、逆に漫画を描き始めた経緯をきかれる。
「普通だよ」とコメダ。漫画の登場人物が綺麗で光って見えて、いつも一緒に居られるように真似して描いて、そのうち同人誌を作ってイベントに……と語る。
「あそこが私のパワースポット」
うららがコメダの漫画を読み、自分で描いてみる様子が描かれる。
4場(15分)うららと雪がお互いを気遣うことですれ違う→コミティアへの参加を決意
要素①
うららが雪を冬コミに誘うが、直後に雪の老いを感じる
うららは受験を言い訳に約束を反故にし、会うのも控えることになる
要素②
紡に何か熱くなれるものがあっていいと言われ、英莉の留学のことを聞く
要素③
久しぶりに雪の家を訪れ、終活を視野に入れた私物と、古い漫画を見つける
要素④
雪が書道の先生になったきっかけが、ファンレターを綺麗な字で出したかったからだという話を聞き、うららはコミティアに申し込みをし、売る側で出ないかと雪を誘う
雪邸の縁側でノートに書いた漫画をみるうらら。
雪をコミケに誘う。一緒に行く約束をして、お茶菓子を出そうとする雪だが、腰が痛く立てない。「寒くなって……」と雪。帰宅するうらら。
うららはコミケ会場に足を運んでみる。遠くから会場を眺め、来場者数などを調べる。人混みについての情報がたくさん出る。
うららは夜、雪に電話をかける。「冬コミにいけなくなってしまって」と、受験勉強を言い訳にする。「また今度があるじゃない」と雪。
授業中にノートに書かれた漫画をみるうらら。
挟まる作中作では主人公たちのすれ違いが描かれている。
『こんなやりかた間違ってる』『だけど』
『僕を大事にしてて君は幸せになれるのかな』
冬。縁側に座る雪に書道教室の生徒がカレンダーを渡している。
画数の多い漢字を書くのが好きな子供が書いた文字は『寂寥』
雑誌を読むうらら。
作中作で『早く忘れなきゃ』と思いながら、再会する主人公二人が描かれる。
『あんまり未来のこととか考えすぎんなよ』
『どうして僕はこの人を忘れられると思ったんだろう』
『できるわけないのに』
進路調査票を早く出すように言われるうらら。
探し出したぐしゃぐしゃの進路調査票。挟まっていたノートには漫画があり、後ろにいた紡に見られる。うららは「下手だけど」と言うが、紡は「いいよな、そういうのあって」「熱くなれるもの」と話す。どうしたのかと聞くと、英莉が留学したいことを聞いたと言う。一緒に勉強する二人を眺めるうらら。
夜、うららは喫茶店から雪に久しぶりに電話をかけ、「またお邪魔してもいいですか?」と聞く。雪は「嬉しくて跳ね上がっちゃった!」とはしゃぐ。
合鍵で先に雪邸に入るうらら。
埃を感じる空間で終活を視野に入れた雪の私物を目にしてしまう。
古い漫画本を見つけたところで雪帰宅。
うららが手にしていた漫画は、貸本屋の本を母に嘘をついて買ってもらったものだという。
そこにはファンレターが挟まっている。書いたが、自分の字が嫌いで出せなかったという。だから上手くなりたくて書道を始めたらいつの間にか書道を教える人になっていた、と。「何がどうなるかわからないわよね」と雪。
しかし手紙は、作者が漫画家を辞めてしまい結局出せなかったという。出しても変わらなかったと思うが、「大事なものは大事にしなきゃだめね」と雪は笑う。
夜、手紙を見返して、「下手くそな字」と笑う雪。
うららはコミティアにサークル側として申し込みをする。
雪の庭いじりを手伝い、5月に一緒に出ないかと雪を誘う。
雪は勉強のことを気にしつつも、「出る」と即答。
5場(15分)うららが悩みながらも漫画を仕上げる
要素①
うららが漫画道具一式を購入し、動画を見ながら練習する
要素②
コメダとうららが煮詰まり、描いては消してを繰り返す
コメダは描きかけの絵に、うららはコメダの漫画の登場人物に語りかける
要素③
雪に連れられて書道教室の生徒が経営する印刷所へ行く
驚くうららだが、あと10日と言われ覚悟が決まり、漫画を一日1ページずつ描いていく
要素④
無事原稿を書き上げ入稿
うららは一人「楽しかった」とつぶやく
漫画を描く道具一式を買ったうらら。動画を見ながら漫画を描く。
「これを本にして人に売る? 正気か私」
図書館で懸命に勉強する英莉を見かける。
コメダ優とうららが煮詰まり、消しては書いてを繰り返す。筆がとまる二人。
書きかけの絵に語りかけるコメダ
「今何してる? どうなりたい? 何を考えてる?」
壁にコメダの作品の登場人部を見て語りかけるうらら
「好きなものを好きって言うのも、夢はあれですとか将来こうなりたいとかそういうの全部恥ずかしい、疲れる」
「自分の大事なものを大事にできて凄いね」
雪邸。天ぷらをもらい、漫画の進捗を聞かれる。雪、うららの漫画を楽しみにしている。
そのまま連れていかれたのは知り合いの印刷屋。コピー本のつもりだったうららは固まる。プレゼントさせて、と雪。
印刷屋の男性は無理しなくていいと言いつつも、「あなたに誘われてよっぽど嬉しかったんだろうね」「綺麗ですよ、オフセット印刷」
締切はあと10日。1日一枚。「ま、いっか」と、うららは描く決意をする。
隠れてひたすら漫画を描き続けるうらら。子供の書いた習字『奮闘』
雪邸で縁側の窓で転写するうららを若い頃の自分と重ねる雪。習字『渇望』
「漫画描くの楽しい?」と聞かれうららは答える。
「あんまり楽しくはないです。自分の絵とか見てて辛いですし」
「でも何かやるべきことをやってるって感じがするので悪くないです」
漫画を仕上げるうらら。習字『貫徹』
印刷所に原稿を預けるうらら。帰り道、一人歩きながらつぶやく。
「楽しかった。……楽しかった」
小走りで駆けていく。
6場(15分)コミティア当日+うららの漫画の朗読
要素①
本が仕上がり雪の家で開封する
要素②
コミティア当日、雪は腰を痛め、うららに一人で行くよう電話する
その後、なんとか会場に行こうと車を出してもらう雪
対してうららは怖気づき、会場に入るのをためらう
要素③
結局会場に行けなかったうららを見つけた紡が1冊購入する
途中で故障した車の傍にいた雪にコミティア帰りのコメダが話しかけ、参加のきっかけが自分の漫画だと聞き、名乗らずに1冊購入する
要素④
夕方、「大冒険だった」と言う雪に、うららは「情けない」と泣く
要素⑤
うららの漫画(全編朗読)
本が出来上がり、雪の家で開封するうらら。丁寧に破かずに封を開ける。
その後、家でサークルのチェックをする。
夜、明日の準備をする雪。腰が痛い様子。翌朝、起き上がろうとするが厳しい。
電話で一人で参加するよう言われるうらら。
うららは会場に向かうも、浮かない表情。雪、なんとか立ち上がる。
スペースに着くうらら。周りの音がやけに大きく響く。
雪は、おぶってもらい車で会場へ行こうとする。
しかし、うららはスペースにいることができず欠席。雪の乗る車は故障。会場の外にいるうらら、雪からの電話に出ることもできない。
そこにやってきたのは紡。会場に居なかった理由についてうららは「怖くなった」と答える。そして「買う、いくら?」と聞く紡に1冊本を売り、深々と頭を下げる。
一方故障した車の脇にいる雪を見て、変装した女性(コメダ)が声をかける。
漫画を持っているの見て、コミティアに行ったのかと聞くコメダ。
売りにいくはずだったの、と雪。
「あなたも漫画お書きになるの?」
「私コメダ優先生のファンで」
「優しいの。元気出るの。元気出て、漫画作ったの」
コメダは「その漫画売ってくれませんか?」と雪に聞く。
夕方、雪邸でサンドイッチを食べる。
「2冊も売れるなんて」「大冒険の1日だったわね」という雪にうららは「私は情けないです」と返す。全部が情けないと言う。
「こんな素晴らしい漫画つくったのよ?すごいわようららさんは」
うらら泣く。
うららの漫画の全編朗読。
雪と過ごした日々が反映されている。
『縁側で食べるカレーはすごくおいしいんだ』
7場(10分)日常に戻り日々を過ごす二人+コメダの漫画の最終回
要素①
次回最終回のコメダの漫画が載る雑誌をそれぞれ買う二人
雪は登場人物と似た服装でパスポート用の証明写真を撮り、うららは留学が決まった英莉と別れの電話をする紡に会う
要素②
学校の保護者面談
英莉に会ったうららが自分から「頑張って」と声をかける
うららが雪に最終回発売後に会合を、とメールする
要素③
最終回を読む二人
コメダにファンレターを書く雪
うららの書いた本を読むコメダ
要素④
うららが雪の家を訪れ、二人で漫画のハッピーエンドを喜ぶ
1か月後のサイン会に一緒に行く約束をする
雪の家は片付いており、娘の住む海外にお試しで行くと聞く
夏の本屋。雑誌を買う雪。
表紙を見て着替え、おそろいと微笑む。そのまま表紙とおそろいの服で証明写真を撮る。
同じく雑誌を買ううらら。帰りに紡に会う。電話して泣いている。英莉の留学が決まり別れたという。
保護者面談。母は「フラフラできるとはフラフラしときな」という。
英莉を見かけたうららは追い掛けて一言「頑張って」と言う。英莉も「うん、ありがと」と短く返す。
「目標に向かって真っ直ぐ努力するのって大変だよね」と母に言ううらら。「我々のような小市民はせめての精神よ」と母。小さな目標を決めてそこまでは、とやっていく。
料理する雪にうららからメール。次回の最終回後の会合の誘い&『それまではせめて勉強頑張ります』と書かれている。雪、歌いながら料理を再開。
最終回を読む二人。
コメダ優に筆でファンレターを書く雪。
うららの書いた本を読むコメダ。
雪邸を久しぶりに訪問するうらら。物が片付いており、閑散としている。
語り合う二人。
「二人とも頑張った! 本当によかった! 二人が幸せになって」
「終わっちゃて寂しいですけど」
1か月後のサイン会に一緒に行く約束をする。
そして家の様子が気になっていたうららは、どこかに行くのかと聞く。雪は娘のところにお試しで行くという。パスポートの写真は登場人物とおそろい。「一緒に旅するの」と雪は嬉しそうで、うららは「乙女ですね」と笑う。
8場(15分)サイン会当日+その後の二人
要素①
サイン会当日、うららは紡に呼び出され、留学する英莉を見送りに行った方がいいと思うか聞かれる
途中まで一緒に来て欲しいと頼まれ、うららは雪に遅れると連絡し、紡をひっぱり空港へ走る
要素②
コメダの作中作が唯一朗読される中で、先に列に並ぶ雪と、走るうらら
要素③
コメダにファンレターを渡し、サインをもらう雪
コメダはコミティアの本を買ったのは自分だと話しかける
雪は、描いたのは友達だと話し「この漫画のおかげで友達になったんです」と礼を言う
要素④
無事サインをもらったうららと合流する雪
コミティアの本のことを聞いていないと知り、連絡すべきだったと後悔する
お互いのサイン本を見せあい写真を撮りはしゃぐ二人
雨の中帰宅したうららは「完璧な一日」とコメダの漫画のセリフを言う
要素⑤
うららが雪不在の家を訪れる
習字の生徒が家のメンテナンスをしている
雪と短い通話をし、うららは初めて雪の家を訪れた日と同じ、カレーの匂いを感じる
サイン会当日。設営が進んでいる描写の中、家で外に呼び出されるうらら。
紡から英莉が今日の夕方の飛行機だと聞く。「お見送りしないといけないと思う?」と尋ねる紡。行った方がいいと言ううらら。「お洒落してるし、行くつもりかなって」と。
「途中まで着いてきて欲しいって言ったら迷惑?」という紡。うらら、すぐに雪に遅れると電話をする。紡をひっぱって、空港へ走る。
作中作(唯一朗読有)
「君といると僕は嬉しい」
「君といると僕には力が湧いてくる」
「君といると、僕は僕の形がわかる」
「僕も君にそれをあげたい」
列に並ぶ雪。うららから向かっていると連絡。サイン会が始まる。走るうらら。
サイン会で雪の番になる。ファンレターを渡す。
コメダ、雪のことを覚えている。
うららが最後尾に並び始めたところで、コメダが雪に話しかける。
5月のイベントで漫画を売ってもらったの私です、とコメダ。
「宇宙人可愛かったです」「行き詰まってた時だったので元気出ました」
雪は、お友達が描いたものなんです、とうららのことを話す。
「この漫画のおかげで私達友達になったんです」
「描いていただいてありがとうございました」
雪、喫茶店でうららを待つ。コメダのことをうららに連絡するか迷い、直接聞いた方がいいかと思ってやめる。涙ぐむ。
サインはうららの番。しかしコメダはうららに話しかけることはない。
喫茶店で合流して、聞いていないことを知る雪。うららの漫画を買ったのがコメダ先生だったと告げる。感想を聞くうらら、ぽかんとしている。「え⁉」と驚く。うらら嬉しそうだが「うけとめるのに精いっぱいで」と飲み込めない様子。
とりあえず、と、お互いのサインを見せあう雪とうらら。
並べて写真を撮り、はしゃぐ。
雨の中、タクシーで家に帰る二人。「酷い日になっちゃたわね」と雪。縁側から雨を見つめて語る。コメダの話の件、先に聞かなくてよかったです、とうらら。そして「今日は完璧な1日でした」と続ける。「私も」と雪。
後日、うららは家主不在の雪邸を訪れる。
習字教室の生徒が家のメンテナンスをしている。雪と短い電話をして私物を送る約束をする。
縁側にいたうららは、こう口にする。
「あ、カレーの匂い」
感想
物語について
悪意のない優しい世界で、特に大きな事件があるわけではない。
それなのに、ほんの小さな変化に共感したり、ほっこりしたりできる。
好きなことを好きだと表現する難しさと、たくさんの楽しさが描かれた優しい映画。
疲れた時や、ちょっとだけ勇気が欲しい時に見て欲しいお話。
構成等について
以下、ネタバレ配慮せずに語ります。
ご注意を!
まず言っておきます。
全5巻の漫画の要素をうまく拾ってしっかりまとめた再構成、めちゃくちゃ上手いです。
撮影上の制約と尺を考えたら、これ以上の再構築はできないのでは? と思います。
映画としての展開速度がほぼ完璧で、かつ原作のストーリーの要点は外していない。
主演二人も、原作の雰囲気の完全再現とまではいかなくとも、このストーリー展開をする上で間違いはないキャスティング。
まず、うららは原作より少しはきはきした印象ではあるのですが、より年相応な雰囲気に仕上がっています。その兼ね合いで少し違う解釈の『うららっぽさ』がありました。
全力で走るカットが多いのですが、とても印象的で映像映え抜群。さすが芦田愛菜。
対して雪さんは静かな味付け、という印象。
原作ほどのパワフルさこそないのですが、その分「本当にいそう」と思わせる絶妙なバランスの可愛いおばあちゃんでした。
まあ、なんなら、二人の演技・役解釈が一番の見どころ! とまで言える映画です。
では、ストーリーについて語ります。
当たり前の話なんですが、なにかしらの原作付きの映画は、『映像として成立させる』ためにある程度は『再構築』『改変』しないといけない。媒体や尺が違うのですから、まったく同じことをやろうとしたら大体は失敗するんです。
その上で、改変した箇所が的確だなあというのがまずは大きな感想。
カットシーンについては語りきれないので、少し改変箇所について語ります。
原作からの改変点
改変1
うららが本を作るきっかけに、『雪は、漫画家へのファンレターを綺麗な字で出したいという思いがきっかけで、書道の先生にまでなった』というエピソードを絡めた。
これは改良だったと思います。
要は、うららの中で小さな積み重ねできっかけとなっていくエピソードや、雪の過去回想などを軒並み削った分にこのシーンを入れて、終始『うららと雪』にフォーカスして物語を展開させていったっていう話なんですけど、尺を考えれば大正解。
しかもこのファンレターを後半のエピソードにもしっかり絡めているので、馴染み具合がすごい。元からそういうエピソードだったように見えるくらいです。
改変2
原作では普通に二人で参加できていたコミティアのエピソード。
雪は腰痛+車のエンストで参加できず、うららは一人で行くことに怖気づいてブースに行けない、という流れに改変。
賛否ありそうですが、これはもう撮影の制限上仕方のない改変だったと思います。
まあ、原作ではうららの成長が明確に見えるシーンだったので、残念ではあるんですが。
ただ参加できないだけではなく、結構カットされてる『雪の老い』を感じるエピソードとして機能していますし、何よりここで漫画版の前半にあった、二人が出会ったきっかけの漫画の作者・コメダ優に会うエピソードをカットしたことが効いてるのがいい。
原作では担当が代理で買いに来たことで購入者がコメダだとわからないのですが、映画では単純に会ったことがないために、止まった車の傍に居た雪を心配してたまたま話しかけてきた人物がコメダだとわからない、という流れなんです。
この2点の改変が、サイン会のエピソードを映画のクライマックスたるものにしてるんですよね!
改変1のおかげで、雪にとってのサイン会は、『好きな作家に綺麗な字でファンレターを渡す』という夢を叶える場になっています。昔できなかったことをやっと達成できた、という雪にとってのクライマックスになっているんですね。
一方、改変2(含カット部分)があるから、コメダを初めて見るうららにとっても、本を買ってくれたのがコメダだと聞くシーンが山場になります。
原作の流れのままだとコミティアが山場になって、サイン会が「あれ? まだ続くの?」と思わせるシーンになってしまうと思うんですよね。
まとめると、映画単体としては本当によくできていて、とても高評価。
しかし、原作付きである、と考えると2点ほど、漫画から拾い切れてないなあ~と思った点があります。
漫画版が描いていた縁側とは何か
タイトルにもある『縁側』という要素。
あまりある家が今では少ないかと思いますが、とても素敵な空間だなあと思います。
その『縁側』をメタ的に感じる空気感が、原作漫画と比べるとかなり薄れているのです。
漫画版では主役二人の交流以外に、二人の日常の何気ないモブキャラとのやり取りがあります。
もちろん2時間の映画にする上でカットして然るべきシーンなのですが、漫画ではそこが絶妙に『他人の人生(=家の中)の一部分を縁側から覗き見ているような距離感』を演出していました。
例えば、うららは両親が離婚していて母子家庭。
映画ではカットされていましたが、原作では定期的に父と会うシーンが描かれます。
しかし、そこに至った経緯や伴う葛藤などはほとんど描かれない。
それが逆に、読者が見ているのはうららの人生の縁側であり、その先にはちゃんと奥行きがある、という厚みを出していたと思うんです。
雪さんについても、病院でのルーティーンや、友人と会うシーン、買い物のシーン、過去の回想、ご近所さんとその家の子供の話をするシーンなどがあり、物語には出てこない生活と、積み重ねてきた人生を感じます。
決して止まってくれない時間の流れ
もう一点残念だったのは、作中の時間経過の描写。
原作漫画は、登場人物たちの成長と変化に加えて、『本人の心の成長なんてお構いなしに勝手に進んでいく時間/タイムリミット』を感じる構成でした。
要は、雪さんにとっての老い、寿命。
うららにとっての受験、進路の決定ですね。
この刻々とせまるリミットが、この優しい物語をどこか切ない雰囲気にする肝だっただけに、取り入れられなかったのは勿体ないなあと思うワケです。
まあ、冷静な感想はこれくらいです。
まとめ
【総評】★★★★☆(3.7)
映画としてはよくできていたけど、漫画の醸し出す雰囲気の繊細なところまでは再現できていなかった。
続・感想(という名の叫び)
ここからは、漫画版英莉ちゃん過激派として少々語らせていただきます。
英莉ちゃんはなあ!!!!
そんな舞台装置みたいなキャラじゃないんだよおおおお!!!
正直この改変、許せた英莉ちゃんファンおる? って思ってます。
いやね、英莉ちゃんを真面目に描写したら、3人目の主人公になってしまうので、映画としては正しい改変なんですよ。分かってるんですよ。原作でも『うららからみた英莉』に終始していて、心情を掘り下げられているキャラではないです。
その上で色々言いたいので、英莉ちゃんについて考察して語ります。
原作の英莉ちゃん(うららの幼馴染の彼女)は、予備校での描写などで、他校にも名が知れ渡っているほどの超美人として描かれています。友人関係もまあ良好に築いていますが、恐らく本来の気質は一匹狼タイプ。友人との会話シーンが群れている雰囲気じゃないし、リーダーっぽくもないんですよ。なんならダウナー気味な印象もあります。
『カースト上位キラキラ女子だけど、彼氏に興味あるか聞かれたのきっかけで流行ってるBL読んでみたら面白かった! 純愛! 学校でも広めちゃうよ!』
……とかね、絶対しない子なんですよ。
映画でBL読むきっかけになった紡(彼氏)の同じ問いに、原作英莉ちゃんは「漫画自体あんま読まない」って答えるんです。更には漫画ばかり読んでる紡と距離をとったり、勉強しまくって学年3位の成績をキープしたり、真面目に留学という夢に一直線な子。
英莉ちゃんの留学の動機については原作でも掘り下げられてはいないんですけど、恐らく『外見で見知らぬ他人から勝手なイメージを押し付けられて、常に注目されてきた』という経験から来てるんじゃないかなあと思っています。頭良さそうとか悩みなさそうとか人生イージーモードとか。
ピグマリオン効果としてプラスに作用することもあるんですけど、見知らぬ他人の謎の勝手なイメージと期待と視線って、正直めちゃくちゃ重いと思うんです。
原作では英莉ちゃんが、紡と何を話していたのかうららに聞くシーンがあります。
「四方山話」とたどたどしく答えるうららに、英莉ちゃんはこう言います。
「へー……いいな…」
「私もそれしたい」
それに対して、「私なんか」と答えるうららに英莉ちゃんは続けます。
「私なんかって言わないで」
「私なんかって言われたら、私だって傷つく」
英莉ちゃんは「今のは八つ当たり、ごめん」とすぐ訂正するんですが、うららはその言葉の意味が分からず、悩みます。
これが、映画版でBLの話を堂々とする英莉ちゃんに、うららが「ずるい」と思うエピソードの漫画版なんです。
この英莉ちゃんの言葉は『期待されすぎていて、中身のない会話(四方山話)ができない自分』=『素が出せない・気を抜けない自分』が嫌い、という感情からきているセリフだと、私は解釈しました。
そしてそれは、彼氏に対してだけでなく、誰に対してもそうなんだろうなあと。
そう考えると、英莉ちゃんにとっての留学って、今の環境から逃げつつ、期待通りの自分を演じる手段だったのではないかと思うんですよね。『逃げながら、維持しながら、本当になりたい自分を目指す』っていう、建設的で前向きな逃避。この選択ができる英莉ちゃん、頭がいい。
だから、BLを広めてファッションとして楽しめちゃう英莉ちゃんが、正直解釈違い。
これじゃあ完全に舞台装置です。でも映画としては正しいんですよ、悔しいことに。
結論として何が言いたいかといいますと、
原作の英莉ちゃん、めちゃいいから、原作未読の人、是非読んで!!
以上、「メタモルフォーゼの縁側」の映画と漫画の比較感想でした。
最後まで読んでいただきありがとうございました!