映画「金の国 水の国」2023 レビュー&考察 キャラクターの魅せ方で性善説を成立させた良作

金の国水の国 映画

アマゾンプライムで配信中の「金の国 水の国」(2023)(117分)を鑑賞。

えいまんぼん
えいまんぼん

原作は岩本ナオさんの同名漫画。

2016年「このマンガがすごい! オンナ編1位」などを受賞しています。

隣国同士であるアルハミトとバイカリは長年戦争を繰り返し、今では国交を断絶している。
アルハミトは水以外は何でも手に入る交易で栄えた砂漠地帯の『金の国』
――対してバイカリは貧しいが水と自然だけは豊かな『水の国』だった。

そんな二国が先代の約束に従い、アルハミトからは国一番の美女、バイカリからは国で一番賢い青年をそれぞれ差し出す縁談を結んだ。

しかし、アルハミトから差し出されたのは猫で、バイカリから差し出されたのは犬……
――それぞれの貰い手となった、アルハミトの第93王女サーラ(声・浜辺美波)と、バイカリの建築士ナランバヤル(声・賀来賢人)は、公にすれば戦争は避けられないと、事実を隠蔽しようとする。

そんな二人が国境付近で出会い、サーラは姉たちに婿を見たいと言われていたため、その代役をナランバヤルに頼む。快諾したナランバヤルはその席に向かう道中で、好戦的な国王派と反戦主義の王女派が対立していると、国の実情を正確に見抜く。水不足で、様々な高度なインフラが止まっていることも……。

その後、王女派の若い左大臣・サラディーンにナランバヤルはこう持ちかける。
「バイカリからアルハミトへ水路をひかないか?」
――それは、両国の国交を開く提案だった。

何気ないやり取りの中で惹かれ合ったサーラとナランバヤルが、お互いを想う気持ちで、国に変化をもたらしていく。

あらすじだけだとまるで陰謀渦巻く政治もののように見えるこの映画――
はっきり言いましょう。めちゃくちゃ優しい物語です。びっくりするくらいに。

理由は2点ほど挙げられます。
順番に見ていきましょう。

えまんぼん
えまんぼん

ネタバレにはあまり配慮しておりませんのでご注意を!

「金の国 水の国」が優しい物語になった理由

主役がとにかく好印象

まずはもう、サーラとナランバヤルがとても魅力的な善人である、というところが大きいです。

容姿にコンプレックスこそあるものの、おっとりしていて何もかも受け入れる包容力と、大切なもののために頑張れる強さを持ったサーラ。

一見、口の上手い調子のいい男に見えて、実は有能で人の本質を見抜き分け隔てなく接する力があり、周りの雰囲気をよくすることに長けたナランバヤル。

えいまんぼん
えいまんぼん

はっきり言いましょう。
もはや推しカプです。
末永く幸せでいて欲しい。

漫画版も読みましたが、本作は映画版の演出の方がより二人の魅力を引き出せている印象
少し父親(国王)にトゲがあったサーラの言動は一貫した優しいものに修正されており、またナランバヤルの気持ちのいい気遣いのできる性格は演技と演出で補強されています。あと、水路の設計図も北の技術ではなくナランバヤルの自作になっており、有能感マシマシです。

いや、もうね、こんな魅力的な二人を主役に据えてドロドロした政略ものなんてやられたら、二次創作で幸せにしてあげたくなりそうなランクですよ。
優しい話で本当によかった……。

脇役の多面性・背景をきちんと描いている

しかし、主役だけ善人でも優しい物語なんて成り立ちませんね。
そして全員を完全な善人にしてしまっては、今度は事件が起こらず物語が発生しない。

なにかしら不穏な動きをする人は物語を動かすのには必要不可欠です。

その事件を起こすキーパーソンにきちんと共感できるバックボーン(=意思)があることが、本作が優しい物語たり得た一番の理由かと思います。

悪役には、悪人だと認識される要件というものがあると思うんですよ。
ざっくりいうと、

①そもそもの行動が悪行である
②その行動の理由が自分本位あるいは受け手に理解されないものである
③物語の最後まで改心せずに理解の及ばない人物であり続ける
(=作中で成長しない)

――といったところでしょうか。

逆を言えば、たとえばこの②を魅力的な理由(めちゃくちゃサイコパスでも可)にしてしまえば、コアなファンが付く魅力的な悪役になるし、③を外して最後には主人公側に立って活躍するなどすれば一気に良キャラになるわけです。

本作で印象的だったのは、行動の理由が理解できるキャラばかりだったという点です。

それほど尺があったわけではないのですが、サーラにきつく当たっていた王女だって国を愛している描写が入るし、好戦的な国王にしたって歴史に不名誉に名を残したくないという思いを抱えており、過去の回想などでそれがどれだけ彼の重荷になっているかが描写されます。
そして、最終的にはナランバヤルの言葉で考えを改め、国交を開き、ストレス性の頭痛からも解放されている。要は作中での成長とも言い換えることができる③も満たしているわけです。

そのように一面だけでなく、別角度から見た内心をきちんと見せることで、『悪く見える面もあるけど、悪いのはあくまで一面だけであり、根底にはきちんと人間味がある』という現実世界でも往々にして遭遇するような面を描いている。

それが、この映画に溢れる優しさの源ではないでしょうか?

性善説が違和感なく受け入れられる理由

しかし、ここまで読んだ方のうち何人かはこうお思いでしょう。

あまりにも性善説すぎない?

えいまんぼん
えいまんぼん

そうですね、私もそう思います。

しかし、これ、意外と違和感なく受け入れられるんです。
それはなぜか。

いろいろありますが、一番の理由は『作風と画風があまりにもマッチしていた』というところに行きつくと思います。

たしかに、正直なところ、ハラハラ感はあまりない映画なんです。ないというか、緩和されている、というか。
でも、それが妙に絵柄にマッチしていて、本当に不思議なくらい違和感を覚えずに見ることができる。

すずめの戸締りなどで有名な新海誠監督が、キャラクターデザインについて「このデザインによって一気に現代の物語になる」という旨の発言をしていたのが記憶に新しいのですが、画風って本当に作品の顔なんです。
……たとえば、「はらぺこあおむし」が妙にリアルタッチだったらニッチな需要しかなくなるでしょう? ……なくなるよね? え? なくならない???

いや、もうなくなるという前提で行きますけど、
物語には、それに合った画風というものが存在して、時には画風が物語の印象を変えることもあるのです。
本作はまさにそれが合致し、補い合って、上手く機能した例なのではないかなと思うワケです。

というわけで、各キャラクターを、性格・バックボーン・デザイン……そして演出という実に多面的な方向で非常に魅力的に描き出してる「金の国 水の国」

優しい話に触れたいときに是非見て欲しい作品です。
アマプラ無料期間中に一度ご覧になってはいかがでしょうか?

ここまでお付き合いいただきありがとうございました!

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